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名古屋地方裁判所 昭和28年(行)18号 判決

原告 久野かや 外一名

被告 国

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告は愛知県知多郡横須賀町農業委員会が別紙目録一、二記載の物件につき為した昭和二十六年十二月二十一日附農地買収計画売渡計画並びに昭和二十七年四月十日附農地買収計画売渡計画はいずれも無効であること確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、其の請求原因として、

(一)  別紙目録一、記載の農地は原告久野かやの所有、別紙目録二、記載の農地は原告久野育雄の所有なるところ、愛知県知多郡横須賀町農業委員会(以下町農委と略称する)は昭和二十六年十二月二十一日自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)により別紙目録一、二記載の農地に対し買収計画と同時に売渡計画を決議樹立した。(以下この買収計画売渡計画を第一回買収計画売渡計画という。)然しながら町農委の右第一回買収計画売渡計画には次の如き瑕疵があるので無効である。即ち同日の委員会には農業委員高津元治、神谷甚九郎、久野安太郎外十六名の委員が出席して第一回農地買収計画売渡計画を決議樹立したが出席者の一人久野安太郎は別紙目録二記載の横須賀町大字大田字下前田四番地田三畝〇四歩を原告久野育雄より借受けて小作していたので(同人は売渡計画において右小作地の買受人となつている)右買収計画売渡計画の議事に参与してはならぬのに同人はこれに参与し全員一致を以て決議樹立された。然しながら右決議は農業委員会法第三十九条の議事参与の制限に違反する。右規定は「一人の力よく百をも制する」と謂う影響力を排除する為設けられた強行規定である。而して第一回買収計画売渡計画は同日同一決議で為されており、右決議はいかなる意味においても不可分のものであるから、前叙のごとき違法であるかぎり同日の決議全体の無効を来たすものである。よつて昭和二十六年十二月二十一日になされた右第一回買収計画売渡計画の無効確認を求める。

(二)  そこで原告等は右第一回買収計画売渡計画に対し町農委に異議の申立をなし、其の決定に対し更に愛知県農地委員会に訴願して其の計画内容の違法不当を争つていたところ昭和二十七年四月十日町農委は既に別紙目録第一、二記載の農地につき第一回の買収計画売渡計画があるのにかかわらず同一目的物件につき更に自創法により買収計画並びに売渡計画を決議した。(以下この買収計画売渡計画を第二回買収計画売渡計画という。)然しながら右第二回買収計画売渡計画には次の如き瑕疵があるので無効である。

即ち(イ)右買収計画には農地買収の対価を附議せず単に買収計画売渡計画承認のみである。(ロ)右決議には買収に関する縦覧期間及び異議申立期間を決議せず且つこの買収計画売渡計画は公告をしていない。(ハ)更に前記第一回買収計画売渡計画の無効理由に述べたと同様同日の委員会には農業委員佐野元三、岡戸昌司、久野安太郎外十六名の委員が出席して第二回買収計画売渡計画を決議したが出席者の一人久野安太郎は別紙目録二記載の横須賀町大字大田字下前田四番地田三畝〇四歩を原告久野育雄より借受けて小作していたので農業委員会法第三十九条により議事に参与してはならぬのにこれに違反した違法がある。よつて昭和二十七年四月十日にされた第二回買収計画売渡計画の無効確認も併せ求めると陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実中別紙目録一、二記載の農地が夫々原告かやと原告育雄の所有なること、原告主張の日時、右各農地につき買収計画売渡計画が樹立されたこと、訴外久野安太郎が原告主張の田三畝四歩の小作人であり、その売渡をうけたことはいずれも認めるが、同人が原告主張の買収計画売渡計画の決議に参与したことは否認する。仮りに久野安太郎が右各計画の決議に参与したとしても同人は前記のとおり小作していた下前田四番、田三畝四歩の買受すなわちその売渡計画についてのみ利害関係を有するもので本件農地の買収計画は勿論、右一筆以外の農地の売渡計画にはなんらの利害関係をも有しない。そして本件買収計画、売渡計画が同日の決議で行われたことは事実であるが決して同一の決議ではなく両者は別個独立の決議である。又買収計画、売渡計画は一筆の土地ごとに定められるものであり便宜上可否の決定のみが一括して一の決議で行われるにすぎない。その決定に至る迄の審議は一筆ごとに行われているのである。従て外形上一の決議であつても各農地ごとの買収計画、売渡計画樹立の決議が重なつたものとみるべく決して原告主張のごとき不可分の決議ではない。それ故だとい久野安太郎が本件各計画に参与したとしても右の田三畝四歩の売渡計画についてのみ瑕疵があるだけでその他の部分にはなんらの違法がない。しかも本件買収計画になんらの瑕疵なくそれが有効である以上、その買収計画が無効なることを前提とする本件売渡計画の無効の主張(原告においてかかる主張をするとすれば)は理由がないし、買収計画の瑕疵とは別個に売渡計画に瑕疵あるの故を以てその無効を主張しても原告等にはかかる訴を提起すべき利益がない。原告主張の(二)の事実中(ロ)の事実は認めるが(イ)(ハ)の事実及び久野安太郎が決議に参与したことは否認する。第二回買収計画売渡計画は公告がしてないので具体的に国民の権利義務に影響を及ぼす処分があつたと言えない。

よつて本訴請求はすべて失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

別紙目録一、記載の農地がもと原告かやの、同目録二記載の農地がもと原告育雄の各所有に属したものなること、昭和二十六年十二月二十一日右各農地について町農委が買収計画及び売渡計画(第一回買収計画、売渡計画)を樹立したこと、訴外久野安太郎が目録二記載の農地の内下前田四番田三畝四歩の小作人であつてその売渡をうけたことは当事者間に争なく、昭和二十七年四月十日における原告主張の第二回買収計画売渡計画については公告がなされていないことは原告自ら主張するところであり、被告も之を争わないのであるからこのように公告の行われていない買収計画売渡計画はたといその決議があつたとしても未だ外部に対する関係において不服の対象たる行政処分として成立していないと解すべきであるから原告はその効力を云為するに由がない。従て右第二回買収計画売渡計画の無効を主張する原告の請求が失当であることは明である。

ひるがえつて原告等は第一回買収計画売渡計画は利害関係ある訴外久野安太郎がその決議に参与している違法があるから無効であると主張する。

よつてしらべるに証人高津秀夫、同久野安太郎、同早川半一の各証言によると農業委員たる久野安太郎は昭和二十六年十二月二十一日の町農委の会議において買収計画売渡計画を審議する際には退席しておつてその議事には参与していなかつたことが認められる。

尤も甲第一号証と乙第一号証の一によると久野安太郎は一応当日の全会議に参与していたようにみられるが前記各証言によると当日会議に列席した町農委の書記高津秀夫の杜撰により本件買収計画売渡計画の議事に際し久野安太郎を退席させた旨の記載を該議事録において脱漏したものであることがうかがえるから同号証の記載を以て前段認定をくつがえすことはできない。

とすれば久野安太郎が本件買収計画、売渡計画の決議に参与したから無効であるとの原告主張の採用しえないこと明白である。

しかし本件買収計画と売渡計画とが同日に決議せられたことはすでにみたとおりであるところ(原告は右は単一不可分の決議であるというけれども本件買収計画と売渡計画とは偶々同日に決議せられたというだけであり、別個独立の決議であるとみるべきは当然であり、証人高津秀夫も同旨の証言をしている。)元来町農委の樹立した買収計画に対しては県農業委員会の承認を経て知事の買収令書の交付が行われしかる後に買収した農地につき町農委において売渡計画を樹立するのが自創法の要請であり、しかも同日中に右すべての手続を履践することは社会通念上不能と思はれることにかんがみると町農委が買収計画を樹立(決議)したと日を同じくして当該の農地につき売渡計画を樹立(決議)した場合には買収計画が適法であつても売渡計画は違法としてその無効をきたすものと解すべきであろう。

しかしながら本件において成立に争のない乙第一号証の一、同第三号証の一、二、三及び前記各証言と、公文書なるにより真正なるものと推定すべき乙第二号証の一乃至十二を綜合すると原告等所有に属した本件各農地については右同日適法なる買収計画が樹立せられ、県農業委員会の承認を経て昭和二十七年四月十二日を買収の時期とする知事の買収令書が同年六月中旬それぞれ原告等に交付せられたことを認めうべく、しかるかぎり右買収の時期において本件各農地の所有権は政府に帰属し原告等はその権利を喪失したものといわなければならないのであるから本件各農地についての売渡計画がたとい違法無効であつたとしてもそのことは原告等の利害にはなんらの関係がなく原告等はその無効を主張すべき法律上の利益を有しないものと解するを相当とする。

従て売渡計画独自の瑕疵を主張する原告の請求が排斥を免れないこというまでもない。

そして又本件買収計画になんらの瑕疵がないことはすでにみたとおりであるから本件売渡計画がその瑕疵を承継すべきいわれもない。

よつて原告の本訴請求はすべて失当として棄却すべきものとし民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 白木伸 村本晃 宇佐美初男)

(目録省略)

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